『grow』 ― たしかなこと
写真は、センチメンタルだ
なぜ私達は、写真を撮るのだろう。私に写真を教えた恩師は、「写真は、センチメンタルだ」と言った。かつてそこにあった光、今は存在しない過去の姿を見ることができるから、と。
今日、施工写真の撮影にお邪魔したのは、結婚を期に中古マンションを取得し、出産を間近に控えるなかリノベーションを計画したHさんの住まい。空間社の同行内覧を利用して物件探しから始め、子育てやこれからの暮らしを考え、ふたりの職場や両家の実家とも近い物件に決めた。
前オーナーも過去にリフォームを施すなど、こだわりを持ったしつらえで、そのまま住むこともできそうだった。建具も素敵でなるべくそのまま使いたいと考えたが、落ち着いたブラウン系で、ご夫妻の好きな色合いと少し異なっていた。
子育てに適した間取り、オープンキッチン、使い勝手のいい収納・・・とご要望がある中でも、ご夫婦が「憧れ」と表現したのは、"一面の壁付本棚"だった。
大切な瞬間
玄関ドアをくぐると、まず旅行かばんやベビーカーの置かれた、大きなシュークロークが目に入った。土間には六角形の白く小さなタイルが敷き詰められている。そこに、大きな靴が二足、小さな靴が一足。
歩けるようになったことが嬉しいのか、私の気配に気づいた皐月ちゃんが笑顔で駆けてきて、お母さんの後ろに隠れて顔を半分出しながら様子を伺った。
「いらっしゃい、どうぞ」と奥様。
塗装し直したドア、窓際のラックに以前の面影を微かに見ながら、真新しい無垢フローリングの廊下を通ってリビングに入る。
幅5mはあろう壁一面に堂々と、ラーチ合板で造作された本棚。テレビ台、作業机、書類収納も兼ねている。その片隅に、皐月ちゃんの成長を写したアルバムと写真立てがあった。つい見入る私の姿に気付き、キッチンの向こうでお茶を淹れるご主人が語りかけるように言った。
「一ヶ月ごとに撮影した写真をまとめて製本してくれるサービスがあって。子供の成長は早いから」
子供の成長がそうであるように、すべての過去はあっという間だ。ひとの記憶は、なんて儚いものだろう。
写真は、センチメンタルだ。ひとつひとつの大切な過去の瞬間が、私達の今日を紡いでいることを証明してくれるから。
つぎにシャッターを押すとき、このうちは、どのように成長をしているのだろう。
RENOVATION PLAN
DATA
施工主 |
横浜市H邸 |
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物件種別 |
中古マンション |
築年数 |
30年 |
施工面積 |
74.16㎡ |
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施工期間 |
2.0ヶ月 |
家族構成 |
夫婦+長女 |
工事箇所 |
全面 |
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工事費 |
1,180万円 |
物件番号 |
86 |